「井の中の蛙大海を知らず」とは有名なことわざですが、「あなた、井の中の蛙ね」と言われたら「視野が狭くて見識のない人だね」というネガティブな言葉だと受け取る人が大半だと思います。しかし、先日、「このことわざには続きがあって、実はその意味がとてもポジティブなのだ」という話題になりました。内容はこうです…
「井の中の蛙大海を知らず」は、「されど空の深さ(青さ)を知る」と続く、と。
…えっ、そうなんですね。
■誰が言い出したのかは不明?!
暗い井戸の中で暮らすカエルの楽しみは青空を眺めることだけだったかも知れないけれど、だからこそ、誰よりも深く空の青さを感じることができた、という意味のようです。つまり、狭い世界でも何か一つのことを続ける(繰り返す)ことで物事を極めることができると解釈することができそうです。
しかし、この続きの句は誰かが後から足したもののようで、その「誰か」が誰なのかは不明のようです。気になるのは、本来のことわざが指している「自分の狭い知識や考えにとらわれて、他の広い世界のあることを知らないで満足している現状」から目を背け、根拠の無いポジティブな言葉に安堵して現状を変えようとしない風潮があることではないか?ということです。
ことわざについて特にこだわりがあるわけではありませんが、危機管理の面では非常に大事だと思いましたので、今回のコラムではこれについて書いてみたいと思います。
■外の世界を知った時のショック…
この言葉について調べてみると様々な情報が出てきますが、始めの句が荘子の言葉であることは間違いないようです。
※コトバンクより抜粋
[由来] 「荘子―秋水」の「井せい鼃あは以て海を語るべからず(井戸の中に住むカエルは、海について語ることはできない)」という一節から。また、同じ「荘子―秋水」には、井戸に住むカエルが東海に住むカメに向かって、井戸のすばらしさを語ったところ、カメから海の広大さをとくとくと聞かされて茫然とした、という話もあります。
自分がやっていることや生きている世界は素晴らしい!と思って信じ込んでいたところに、実は他にも世界があって、それはもっと広くてこれまで想像もしなかったようなレベルのものであったと知らされた時に、往々にして私たちは大きなショックを受けますが、それを知ることは、自分の立ち位置や今後の方向性を知るためには非常に大切なことであると教えてくれています。似た意味を持つ言葉に、「ひとりよがり」とか「世間知らず」、「ガラパゴス化」などが挙げられますが、日本独自の進化を遂げてきた「ガラケー」などは、それ自体は素晴らしいものだったかもしれませんが、世界のスタンダードにおされて消えていった様は正に井の中の蛙だったと言えるでしょう。
■頑張ることが評価されることへの疑問
次に、「されど空の深さ(青さ)を知る」についてですが、こちらは後で付け加えられたもののようで、井の中の蛙をポジティブにとらえることができます。狭い世界しか知らなくても、突き詰めれば深いところまで知ることができるのだ…と。
このような解釈は私も嫌いではないので、自分自身、何事もポジティブに受け取る方だと思うのですが、行き過ぎたポジティブは間違った結果を招くのでは?と疑問も持っています。突き詰める(頑張っている)こと自体に重きを置いて、外界を知らない(見ようとしない)ことが美化されてしまうような気がするからです。
実は今、約2年半ぶりにベトナムに来ているのですが、一緒に仕事をしているあるベトナム人に、こんな事を言われました。「日本人はプロセスを大切にするが、ベトナム人は結果を大事にします」と。全てのベトナム人がこのように考えるとは思いませんが、確かにそうかもしれないと納得しました。彼らが「上を目指す」貪欲な姿勢にはいつも刺激を受けますし、自分自身を振り返るきっかけになっています。頑張ったね、と褒めてもらうことも嬉しいが、良い結果を出したと言ってもらえる方がもっと嬉しいのだと。
■まずは井戸を飛び出してみる
外界を知って広い世界で生きていくのか、また、一つの世界を深く突き詰めて生きていくのか…それぞれの考え方によるところではありますが、経営者が事業の成長発展を考える時にやらなければならない大切な事の一つに「顧客の創造」があります。技術やサービス品質に磨きをかけていくこと以上に、それを必要としてくれる市場を開拓していくことです。既存の顧客との関わりを大事にしつつ、新たな顧客をつくっていくためには、まずは一歩踏み出していく勇気が必要なのです。
私がベトナムに通い続けている理由の一つはそれで、ビジネスに直結する「ネタ探し」以上に、新たなことにチャレンジする勇気をもらえるからです。
ベトナムへの入国にコロナの陰性証明書は不要、屋内でのマスク着用も不要で街は活気にあふれています。相変わらずマスク着用がスタンダードで、異なるものを抑え込む「無言の圧力」のようなものを感じる日本とは大きく違う気がします。世の中が動き出したこのタイミングに、社長がどこへ行って何をするのか?は、現業の結果を左右する大きな分かれ道になりそうです。
次回は7月に訪越を予定しています。百聞は一見に如かず…外界を見てみたいと思われる経営者の皆様、ぜひ私とご一緒しませんか?